一条摂政集をご存知ですか(1)

           個人蔵    「一条摂政集 」伝西行 二玄社             祥香臨

1. 「一条摂政集」とは? What is Ichijousessyousyu?
藤原伊尹(これただ)(924〜972)の和歌を収めた個人の歌集です。伊尹は右大臣九条師輔の長男ですが、屋敷が一条にあったことから一条摂政と呼ばれます。和歌に巧みで、和歌所の別当として「後撰集」の撰に関わりました。諡は謙徳公、「後撰集」以下に入集されています。

この家集の前半は、大蔵史生倉橋豊蔭(おおくらのしさうくらはしのとよかげ)と名乗り
物語的に構成しています。冒頭の詞書から、いい交わした女性がつれなくて、全く逢って
くれなくなったので、贈ったという事情がわかります。

そして巻頭の歌が、「あはれともいふべき人は思ほえで
        身のいたづらになりぬべきかな」
歌意は、「かわいそうに、同情して私に言ってくれそうな人は誰も思い浮かばない
我が身は恋い焦がれて虚しく死んでしまいそうです」

伊尹は、公の世界では、のちに摂政太政大臣にまで上りつめるのですが、歌の世界では
弱々しく孤独な男の姿に自らを投影して、甘美な趣を醸し出していたのでしょう。

           参考文献:「和歌の解釈と鑑賞事典」 井上宗雄 武川忠一編