思ひがけない月夜の逢瀬(12)和泉式部日記を書いて

12.前の方のようには

釈文:「『よも、さきざき見給ふらん人のやうにはあらじ』とのたまへば、『あやし。こよひのみこそ、きこえさすると思ひ侍れ、さきざきはいつかは』」

選字は「よも佐支ヽヽ見多ま布羅無人のやう 耳者阿らしと能堂ま遍八あやし こよ比農みこ處記こえ沙春ると思ひ侍連 さ支ヽヽは意つ可盤」

鑑賞:「さきざき」は以前に経験した事件や事態を指す言葉。過ぎ去った時、過去。現代語のように将来のことには、平安時代には用いられなかった。

大意は「『まさか前々からお逢いになっている方のような失礼な真似はしないつもりです。』とおっしゃれば、女は『おやおや今宵限りと思っておりますのに、先々とはいつのことでしょうか。」

参考文献:和泉式部日記 和泉式部集 野村精一校注 新潮社