父君を亡くされた平親長と贈答歌を(9)建礼門院右京大夫集より

9.時雨ばかりが

釈文:「板びさし 時雨ばかりは おとづれて 人目まれなる 宿ぞかなしき」

選字は「板飛佐し志久れ盤可里八おと徒連 弖人免ま麗奈類やと所可那志支」

鑑賞:「板びさし」は板で屋根を葺いた庇。「時雨」は秋の末から冬の初めにかけて、降ったりやんだりする雨。比喩的に涙ぐむこと。涙を落とすこと。「十月にもなりぬれば、中宮の御袖の涙もながめがちにて過ぐさせ給ふ」『栄花物語』岩蔭とある。

現代語にすると「板庇に時雨ばかりは音をたてて来るものの、人の往来はまれでまことに我が家が寂しい限りです。」

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社