春の夜には(5)詠じたい詩歌

5.野辺の姫小松

粘葉本和漢朗詠集 二玄社 祥香臨

最後の一首は、「子の日しにしめつる野べの姫小松
        ひかでや千代のかげをまたまし」

選字は、「禰のひしにしめつる能へのひめこまつ
     ひかてやちよの可けをまた万し」

「子の日の遊び」とは正月初子の日に野に出て小松を引いて若菜を引き、遊び千代を祝う宴です。

意味は、子の日の遊びをするのに、囲っておいた小松は愛らしく、引き抜くのが惜しく思われる。今日は引かずにおき、千年経った後で、その木陰を待ちましょうか。

今では、あまり見られない風習ですが、元々は真の始皇帝が泰山でこの日に泰山府君を祀って長生を祈ったという故事によると言われています。*①

根を引くことで、長寿を祝うという事例は建礼門院右京大夫集の中にもありました。自然への親しみと、祈りがあらわれているのでしょう。

 *①和漢朗詠集 川口久雄 講談社