本阿弥切の魅力(3)

2. 小野小町の歌を読む To Read the tanka of Komoti

一行目から読んでいきます。
題知らず 小野小町
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ
 夢を知りせば さめざらましを」
歌意は「さっきあの人が夢に見えたのは、あの人を思いながら寝るからだろうか。
夢と知っていたなら、目覚めずにいたものを。」

一行目:「た」は「多」を用いて静かに始めています。「い」で少し広げ、「し」
を真下より右寄りに流しゆったりとした選字です。

続く、「ら」と「す」これは、「春」を選び、二字を詰めて密度を出しています。

そして、作者名の小野小町を「を」「の」「ゞ」「こ」「万」「遅」と書いてい
ます。作者名も変体かなを用いるのかと思われるかもしれませんが、こうした事
は古筆ではしばしば見られます。その前の「題知らず」にしても様々な選字で、
変化をつけているのです。

景色として見ると、多様な書き振りが、動きのある空模様のようでもあり、興味
深く思われます。